第31回日本エイズ学会(東京)レポート


第31回日本エイズ学会学術集会・総会(以下、エイズ学会)が、2017年11月24日(金)~11月26日(日)の日程で、東京で開かれました。テーマは「未来へつなぐケアと予防 Living Together」です。

私たちも学会に参加してきましたので、その様子をご紹介します。

色んな講演を聞いて、特に気になったのは、2018年1月にエイズ予防指針が改正、施行されることについての話でした。(当報告レポート掲載時にはすでに施行済みである。)

前文に新たに記載された事項として、

現在、様々な研究結果から、抗HIV療法を受けて、体内のウィルス量を検出限界以下で維持していると、他人へHIVを感染させる危険性はほぼないという結果が示されており、それを踏まえて、

「抗HIV療法は他人へHIVを感染させる危険性を減らすこと(Treatment as Prevention:T as P)が示されていること。」

が前文に加えられていました。この事は、早期発見、治療を開始する事によって、AIDS発症を防ぐとともに、新たな感染も防ぐ事が出来る事を意味しています。しかしながら、現在、抗HIV療法は、CD4の値が一定値以下になるまでは更生医療の対象とはならず、治療費が高額になるためHIV感染が判明しても、しばらく治療を開始しない場合もあります。この期間を無くせるように、更生医療をすぐにでも適用出来るような体制に変わることは意義のある事だと感じました。

また、

「エイズを発症した状態でHIVの感染が判明した者が、新規に感染が判明した感染者等の約三割を占めており、HIVの感染の早期発見に向けた更なる施策が必要であること。」

いきなりエイズの数が現状多い事も追記されており、引き続き、早期発見のために検査を受けてもらうための活動も重要であると言えます。

他にも、過去の原因不明で死に至る病という認識のままとどまっている場合があり、いまだに差別や偏見が多いことから、社会や特に青少年に対してHIV感染症、AIDSに関する正確な知識を普及し、差別や偏見をなくす取り組みを行う重要性が記載されていました。

また、男性間で性的接触を行う(MSM)、性風俗産業の従事者、薬物乱用・依存者における感染が拡大する危険性が高いことから、日本では、これらの人々を個別施策層と位置付けており、特にMSMが感染者の過半数を占めており、特に重点的な配慮が必要である事が記載されていました。

国民に正しいHIV/AIDSの知識の普及、偏見差別の解消といったHIV感染者の人権に関与してくる追記が多く、予防啓発から人権啓発へ重点が変化してきつつあると感じました。

当ふれんどりーKOBEでは、毎年街頭でHIV/AIDSに関するリーフレットの配布活動や勉強会、感染拡大の危険性の高い個別施策層であるMSMを含めた性的少数者と市民の交流会である虹茶房は、今回のエイズ予防指針の改正で特にあげられている社会への正しい知識の普及、個別施策層への重点的な配慮に関して、大きく関わってくる事であります。今後もこの活動を維持・継続・発展させていく事の重要性を改めて強く感じました。

その他主な改正事項は、厚生労働省HPのエイズ予防対策に記載がありますので、ご確認下さい。

http://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/kenkou/kekkaku-kansenshou/aids/

また予防指針には、前回の学会報告でも紹介した、PEP、PrEPについても

「HIVの感染の危険性が高い人々に対する抗HIV薬の曝露前予防投与が有用であることが、近年海外において報告されており、我が国においても曝露前予防投与を行うことが適当かどうかに関して研究を進める必要があること。」

という一文が加えられておりました。

現在、PEP(曝露後予防)、PrEP(曝露前予防)ですが、海 外ではすでに導入している国(米、英、仏、豪、加など)もあり、英ではインターネットでジェネリック薬を安価で買う事も出来、お隣の韓国ではPrEPで抗HIV薬のツルバダを申請中という報告を聞きました。
PrEPを受けているとHIV以外の他のSTI(性感染症)に感染する危険性などが問題視されていましたが、3ヶ月に一回副作用チェック、STI検査を行っており、薬は90日処方となっているため、他のSTIの感染も早期に発見、治療が出来る体制となっていました。
日本では、予防医療は自由診療になり、保険適用がされないため、非常に高額になります。(月10万円前後)まだまだ日本での普及は難しい課題であると感じました。しかしながら、前述の個別施策層で高いリスク層であるMSMなど局所的に適用する意義は大きい事も示唆されていました。HIV予防指針にも追記されましたので、今後の発展に期待したいと思います。

他地方地域の活動についての話では、熊本市保健所の報告が気になりました。2年前の熊本地震によって、甚大な被害を受けた熊本の保健所では、復興業務のために平日毎日行っていた検査を縮小したりしてますが、復興活動で大変な中、それでも啓発活動に取り組んでいる話はとても素晴らしいと思いました。熊本市では、大学ボランティアスタッフや啓発活動をしている任意団体、ゲイ支援サークルなど、様々な団体と連携してHIV予防・知識普及啓発活動を行われていて、報告からも、とても活気に溢れているように感じました。神戸でも、同じように保健所とふれんどりーKOBEやその他団体や大学、医療関係者、などなど連携・協力していけば、今現在、人手不足、資金不足、知識不足で諦めているような活動も出来るかもしれない、そう感じました。

今回の学会に参加して、一番衝撃だったのは、「抗HIV療法は他人へHIVを感染させる危険性を減らすことが出来る」という事をはっきりと発言されていて、またHIV予防指針にも追記されている事でした。
HIVに感染して相手に感染させるかもしれない恐怖、移る恐怖、少なからずとも恐怖がないとは言い切れないし、やはり正しい知識、認識を知らない人にとっては、いまだに恐怖のHIVだというのはよく分かります。しかし、HIVに関する情報はどんどんと変化しています。昔の「恐怖のHIV」の情報のままである多くの人に、新たな情報を発信し、「共に生きるHIV」に変えていき、HIV感染者はもちろん、MSMなどHIV感染拡大の危険性が高い個別施策層、それをとりまく地域社会において、誰もが安心して住みやすい地域を目指して、努力したいと思います。