第32回日本エイズ学会(大阪)レポート

第32回日本エイズ学会学術集会・総会(以下、エイズ学会)が、2018年12月2日(日)~12月4日(火)に大阪で開かれました。テーマは「ゼロを目指して-今、できること」です。

私たちも学会に参加してきましたので、その様子をご紹介します。

U=U

今年のエイズ学会で注目していたキーワードは、「U=U」でした。

昨年のエイズ学会のレポートでも触れましたが、厚生労働省の新たなエイズ予防指針に
「抗HIV療法は他人へHIVを感染させる危険性を減らすこと(Treatment as Prevention:T as P)が示されている。」と明記されました。また、2018年にアメリカでの大規模研究の結果として、HIVに感染していても、治療によってウイルスが検出不可能な状態の人は、性行為でHIVが相手に感染する確率は限りなくゼロに近く、感染させることはないと報告されました。

まとめると、HIVに感染していても、そのウイルス量が少ない状態であれば、性行為でも相手に感染させる危険性は低くなり、検出不可能な状態の人であれば、感染させる危険性はゼロに等しいということです。

この結果を踏まえた運動で、

Undetectable:検出不可能=Untransmittable:感染させない

の略で、「検出不可能な人は感染させない」という意味です。

このUndetectable=検出不可能な人、とは、厳密には、HIVに感染している人が治療によって、ウイルスが検査で検出できないぐらい少ない状態が6ヶ月以上続き、他の性感染症に感染していない人。つまり、治療効果が持続している人を指しています。

U=Uは、HIVに感染している人が感じている「差別的にみられているのではないか」という劣等感や不安、交際や性生活上の不安を減らし、また、HIVに感染しているかもしれないと、不安を持つ人たちが検査を受ける際の結果を知る恐怖などを緩和するなど、HIV感染に関する様々な不安を軽減し、必要な人が治療を受けやすくすることや、HIV感染を早期に知ること、適切に治療をすることで、HIV感染の拡大を抑止できるのではないかと期待が集まっています。

研究結果などから、厚生労働省が発行する「抗HIV治療のガイドライン」も

近年になって、治療開始がHIVの二次感染の予防にもなること、HIV感染者自身に対しても早期の治療がAIDSや非AIDS悪性腫瘍の発生を抑制することが明確に示された。そのため、CD4数にかかわらず早期にARTを開始することが世界の流れである。

と記載内容が大きく方向転換されました。
以前は、HIVウイルスが体内で増殖し、免疫低下がある程度進行してからの治療が推奨されていましたが、現在では早期発見、早期治療が推奨される内容に大きく変更されています。

しかし、上記研究の結果は、感染経路が性的接触のみに限定されていて、母子感染や針刺し事故などの感染経路には言及していません。当然ですが、妊娠や、他の性感染症は防ぐことはでず、性感染症予防という視点では、今まで通り、せーファーセックス(コンドームを正しく使った性行為)が推奨されます。

また、HIVの治療を受けている人が必ず検出不可能な人の状態になるとは限りません。HIV治療薬の副作用や、他の疾患、経済的な理由などで治療が出来ない人がいます。U=Uが、そのような人たちの不安を増大させてはなりません。

さらに、抗HIV治療ガイドラインの内容が早期発見、早期治療に転換されましたが、実際に治療を受ける際の経済支援制度の適用を受けるためには、以前と変わらず、感染している人の一定のHIVの増殖・免疫低下の進行が必要で、一度は、検出不可能な状態より悪い状態を必要としていて、改善が望まれます。

U=Uにより、HIVに感染している人や、その周囲の人の生活が、より良くなり、また、U=Uにかかわらず、HIVに感染している人が差別を受けることなく、できる限り不安を感じずに生活できる環境を願っているのですが、もう少し改善が望まれるポイントがあります。

抗HIV療法 3剤併用から2剤への試み

世界で初めて抗HIV治療薬が使われた頃は、非常に多く種類の薬を飲んで治療していました。薬の形状も、粉末の薬や、粉末を液体に溶かして飲む薬、冷蔵管理が必要な液体の薬、大粒のタブレットなど様々で、また、薬によって飲む時間もバラバラで、一日中薬を飲む時間の管理をするような状態で、さらに重い副作用にも悩まされていました。現在では服薬事情も大きく改善され、薬の選択肢も増え、重い副作用はほとんどなく、一日1錠飲むだけでよい薬も登場しました。

抗HIV薬には大きく、核酸系逆転写酵素阻害剤、非核酸系逆転写酵素阻害剤、プロテアーゼ阻害剤、インテグラーゼ阻害剤、進入阻害剤の5タイプ(説明はそのうち(笑))があり、治療には、そのうちの3タイプを同時に使います。この薬の使い方を3剤併用といって、推奨される組み合わせパターンが決まっているため、2タイプが一錠になっているものがよく使用されています。

現在、同時に使う薬を3タイプから2タイプに減らす試みがはじまっています。
HIV治療では、何十年も薬を服用することになり、それが原因となって副作用が現れることがあります。2タイプの薬で治療できれば、その副作用をさらに減らすことができること、薬の量が減ることによる経済的負担を減らすことができることが期待できます。

しかし、現状では2タイプの薬では、治療効果が不十分だったり、薬の効かない薬剤耐性ウィルスが出現し、治療をしていてもウイルスが増殖しエイズを発症してしまう可能性が高くなるようで、引き続き3剤併用が推奨されています。また人によって、薬がよく効く/あまり効かない、の相性があり、2剤併用は3剤併用よりもさらに個別の対応が必要になります。

引き続き、副作用が少なく治療効果が高く、耐性ウイルスが出現しにくい薬の開発・研究が進められています。新薬には、薬の飲みやすさを向上させ、薬の組み合わせの選択肢を増やし、治療の成功率Upが期待されます。2剤併用の成功につながるような、さらなる新薬の開発に期待したいですね。

プレ検査

性感染症の検査は、保健所や病院でを受けられますが、検査を受けることや結果を知ることに不安や抵抗を感じる人も多いのではないでしょうか?保健所や病院で検査するよりもハードルを低くした、郵送検査などの検査方法が登場しており、それらをプレ検査といいます。

まず、検査はまだまだ必要です。PEP/PrEP(ペップ・プレップ)(詳しくは過去の学会報告:https://www.f-kobe.org/research/report_jaids_meet-29th/)というHIV感染予防の方法が新しく登場し、世界的には新規HIV感染者の数は減少しつつあります。しかし、日本ではPEP/PrEPに、費用・効果・他の感染症対策の希薄化の3つの課題があります。
約30万円/1回と高額(保険非適用・実費負担)で、HIV感染を絶対に予防できるとは言い切れず、HIV以外の性感染症には効果がなく、正しい理解をしていなければ他の性感染症に感染してしまいます。このため、性感染症検査は引き続き必要で状況に変化はありません。

HIVや性感染症の検査をさらに受けやすくできないか、と考えだされたプレ検査をいくつか紹介したいと思います。

・郵送検査
Webなどで検査キットを購入し、安全に指に針で傷をつける器具で出血させて、血液を採集して返送し、結果はメールやWebサイトで確認します。受診時間や休診日のある病院、実施日が限られている保健所などの検査と違い、自分の都合のいい時間で検査をすることができます。また、メールやWebサイトで結果を確認するため、人に会う必要がないため、プライバシーは完全に保護されます。しかし、結果がHIVに感染している、だったら・・・。その時に必要な支援を受けられるか、支援者に出会えるか、きちんと治療をする状態まで一人でできるか、といった不安があります。

・HIV check
厚生労働省エイズ対策政策研究事業「MSMに対する有効なHIV検査提供とハイリスク層への介入方法の開発に関する研究」が研究として無料、匿名で実施する検査です。方法は郵送検査と同じですが、郵送検査の不安の、HIVの感染が分かった人に対する支援もしっかりと行われます。

・職域向け検査
職域向け検査は職場の健康診断へHIV検査を導入することで、より多くの人に受けてもらえる方法ですが、もし感染していたら、と考えると、プライバシーの面が心配ですね。

プレ検査は、自分の生活スタイルに合わせた検査方法を選ぶことができ、手軽に検査することができるメリットはありますが、方法によってプライバシーや感染が分かった時の不安があります。そこをどう改善していくか、そして検査の広報が届きにくい対象の人々にどう働きかけるかが今後の課題となっています。ちなみに、ふれんどりーKOBEでも、感染が分かった人に対する、治療が始まるまでの支援はできることがありますよ。

まとめ

様々な研究で、HIVをとりまく環境は変化を続けています。治療薬や検査方法など、より便利により使いやすいものがうまれていますが、それを正しく、広くみなさんに伝えられていない気がします。HIVは性行為が関連する病気で、日本では、性の話題がタブー視される傾向が強く、なるべく触れないようにされていると思います。実際にふれんどりーKOBEでAIDS STUDY街頭啓発キャンペーン活動中にも、HIV/エイズという文字を見て避ける方がいますし、話を聞いてくださるで方も「治療がそんなに進んでいるなんて!!」と驚かれる方がいらっしゃいます。確かにMSM(男性同士で性行為を行う人たち)などHIVの感染確率の高い人たちへの対策も大切ですし、広く多くの人にHIVの現状を伝える事も重要だと考えています。