HIV治療の通院負担とプライバシー不安に関する勉強会

2018年1月14日にふれんどりーKOBEは、HIV理解促進を目的とした勉強会を開催しました。虹茶房に参加いただいている方をご招待して、病理学と社会学という異なる2ジャンルについて発表し質疑応答を行いました。

イベント全体のレポートはこちら。

本投稿では、社会学のテーマから「HIVの治療における通院の時間的負担」や「医療支援手続きにおけるプライバシーの不安」についてフォーカスし、HIV陽性者対象のウェブアンケート調査結果をひもときながらご説明した内容を紹介します。

なお、(*出典)としているデータは、「グラフで見る「Futures Japan 調査結果」~HIV陽性者のためのウェブ調査 第1回(2013年7月~2014年2月)」より引用したものです。

目次

  • HIVの治療を受ける人たちの就労
  • HIVの治療を受ける人たちの通院・服薬
  • HIVの治療を受ける人たちへの医療支援制度
  • HIV治療を地元で受けることへの不安
  • まとめ

HIVの治療を受ける人たちの就労

医療技術の進歩にともない、いまやHIVに感染していても、そうでない人に近い働き方ができる人が増えてきていると考えられます。実際に、HIV陽性者対象のウェブアンケート調査によれば、回答者の3/4がなんらかの職業に就いています。そのうち、9割近くがいわゆるサラリーマンの就労形態です。

図 1 HIV陽性者の就労(*出典)

しかし、残念ながらいまだにHIVを完治することはできていません。そのため、感染した人の多くは働きながら治療を受け続けることになります。

それではまず、HIVの治療を受ける人たちがおかれている通院・服薬の状況をみてみましょう。

HIVの治療を受ける人たちの通院・服薬

WEBアンケートの結果によれば、回答した人の多くが抗HIV薬を服用しています。つまり、病院で診察・検査を受けたり、処方箋をもらい薬局で薬を受け取るために「通院」をしていることになります。

図 2 抗HIV薬の服用(*出典)

どのくらいの頻度で通院しているのでしょうか?

図 3 おおよその通院頻度 と 通院のために有給休暇の取得・日程調整・授業の欠席などがあったか(*出典)

3か月に1回以上通院している人がほとんどを占め、またその過半数が通院のために仕事や学校を休む必要があることがわかります。

これは、兵庫県県下でHIV治療ができるのは大病院に限られ、その診療のほとんどが平日の限られた時間にしか受けられないことが原因のひとつといえるでしょう。

表 1 兵庫県下でHIV治療ができる病院とその診察時間

1.神戸大学医学部 月〜金 am8:00〜11:00
2.中央市民病院 月〜金 am8:30〜11:30
3.神戸医療センター 月〜金 am8:30〜11:00
4.淡路医療センター 月〜金 am8:30〜11:00
5.県立尼崎病院 月〜金 am8:30〜11:30
6.関西労災病院 月〜金 am8:15〜11:30
7.兵庫医療大学 月〜金 第1.3土 am8:30〜11:00
8.豊岡病院 月〜金 am8:00〜11:00 pm0:00〜3:00
9.兵庫中央病院 月〜金 am8:30〜11:00
10.姫路医療センター 月〜金 am8:30〜11:00
11.加古川医療センター 月〜金 am8:00〜11:00

また、次の調査結果からは、通院が一日仕事であることが浮かび上がってきます。

図 4 通院時間・滞在時間・診察時間(*出典)

診察時間そのものは30分以内で終わることがほとんどですが、病院での滞在時間が2時間以上になる人が3割にのぼり、通院にかかる時間もあわせると、通院のために半休を取るだけで済む人は少ないと想像されます。

以上から、治療を受けながら働く人たちにとっては、通院が少なからず時間的な負担になっていると考えられます。

そこで、ふれんどりーKOBEでは、診療時間を柔軟に対応できる町医者(クリニック)で、土日にHIV診療ができるようになることが、この問題の一つの解決策ではないかと考えています。

HIVの治療を受ける人たちへの医療支援制度

ところで、HIV治療には時間的な負担とともに高額な医療費がかかることによる金銭的な負担も伴います。そのためHIV治療は公的⽀援制度である「⾃⽴⽀援医療」の対象とされ⾃⼰負担額が軽減されます。ところが、支給補助を受けるためには行政への申請手続きが必要となります。

図 5 神戸市における⽀給申請・判定・認定のながれ
(神⼾市⾃⽴⽀援医療(育成医療・更⽣医療)実施要綱による)

⾃⽴⽀援医療には有効期間があり、一生続くHIV治療についても最⻑1年とされています。つまり1年ごとに再度の申請と認定が必要になります。

各役所への申請は平日日中が基本ですから、通院に比べれば頻度は少ないとはいえ、公的支援を受けるにあたっても時間的な制約が発生することになるのです。

また、役所への申請には時間的・金銭的負担とは違った負担が伴うと想像されます。それは、「プライバシー」の問題です。役所の窓口には地元住民が多く勤めています。その中に知り合いがいる可能性もじゅうぶんにあるでしょう。HIVの治療を受ける人にとって、日常生活で関わる人たちに自分の病名が知られる可能性がある自立支援医療の手続きはたいへん抵抗があるものだと容易に想像されます。

そういった抵抗感や不安を減らすことも、時間的・金銭的な負担を減らすのと同じくらい重要な課題になります。

HIV治療を地元で受けることへの不安

ふれんどりーKOBEでは、働きながらHIVの治療を受ける人たちの時間的な負担を軽減するために、通いやすい地元のクリニックにおける土日HIV診療という解決策を提案していますが、そこにもプライバシーの問題が関わってくると想定しています。

実際、HIVの診療を検討しているクリニックの先生側からも「患者のプライバシーを守りきれるのか」という不安の声が聞かれるそうです。

ここで、「地元でHIVを治療する」際のプライバシー上のリスクについて考えてみます。

  • 地元の役所で⾃⽴⽀援医療手続きをする場合に、病気の情報を取り扱う担当者が知り合いである。また、HIV治療を受けているという情報を口外してしまう。
  • HIVの診察を受ける場合、病気の情報を取り扱った看護師や窓口スタッフが知り合いである。またHIV治療を受けているという情報を口外してしまう。

図 6 地元でHIV治療する際のプライバシー上のリスク

プライバシーを守るために、地元以外に住民票を移し生活圏外の役所で手続きできるようにしたり、わざわざ遠方の病院で治療する方法も考えられますが、移動にかかる時間・費用の負担は逆に増えます。また、住民票を移動することは、さまざまな行政サービスを生活圏内で受けられないということですので、生活の利便性を低下させることにもつながります。

そのため、生活圏と治療拠点を切り分けるような方法は現実的ではなく、病院や行政がHIV治療を受ける人たちのプライバシーを守ることこそが課題と考えられます。

まとめ

WEB調査の回答結果をひもとくと、HIVの治療を受けている多くの人たちが働きながら通院することに困難を抱えている可能性があることが示唆されました。また、医療支援を受ける手続きにはプライバシー上の不安があると考えられます。

ふれんどりーKOBEは、より負担の少ない通院の選択肢を増やすために「土日のクリニック診療」を提案しますが、一方でこの提案にはプライバシー侵害のリスクを高める可能性もはらんでいます。プライバシーの保護は今に始まった話ではありません。まず、既存の大病院での診療や役所手続きにおいて、どういった個人情報保護のガイドラインや認定・監査があるのか?情報に触れる人たちへの意識教育はシステム化されているのか?調査を進めクリニック診療に適用できるものか検討します。また、対面の必要のないオンライン手続きのシステムなど、プライバシーを保護するための新たな仕組みについても考えていきます。