PrEPのこれから

2015年のエイズ学会から2か月後の2016年2月7日、関西のHIV対策に関わるコミュニティセンター・行政・CBO(Comunity Based Organization)の有志によって新たな予防戦略に関する意見交換会が開かれ、その中でPrEPの是非についても話し合う機会がありました。また、HIV治療に長年取り組まれている熊本大学の松下先生が参加され、PrEP推奨の根拠となる実験やPrEPのターゲットに関する最新情報について解説いただきましたのでその様子をレポートします。

現段階でのPrEPは、陽性者をパートナーに持つ陰性の人やセックスワーカ(性産業従事者)といったHIV感染の特にリスクの高い層をターゲットとし、一般の私たちが利用することは想定されていません。HIV治療薬にかかる費用は月30~40万円にもなることを考えると、ジェネリックでも出ないかぎり費用的に困難な対策です。また、医療制度上の理由から、予防としての投薬の場合は健康保険の適用も難しいようです。

会合に先立ってPrEP実施の是非や、これからのCBOやコミュニティセンターが果たすべき役割についてアンケートが取られ、この意見交換会で共有しました。その中で主だった内容をご紹介します。

  • 薬を飲んでいれば感染しないという誤解がうまれる
  • セーファーセックスへの意識低下、リスキーな行動を促進する結果になる
  • 予防啓発活動が後退する原因になる
  • 高額な薬の費用を行政・個人のどちらが負担するかという問題がある
  • 提供する側は服薬方法を適正に説明する必要がある
  • 提供される側には厳格に服薬管理することが求められる
  • セックス前後に計画的に服薬することは難しい
  • 服薬方法を間違って耐性ウイルスを蔓延させる可能性がある
  • 副作用が心配

まるでワクチンができたかのような印象によって、予防に対する意識が低下することからくる問題や、もともと服用継続が難しいHIV治療薬を予防に使用することからくる問題が挙げられていました。一方で、次のようなポジティブな意見もみられました。

  • PrEPを提供することでコミュニケーションが生まれ、それがHIV予防への意識向上につながるのでは?

もともとコミュニティセンターやCBOs(コミュニティー ベースド オーガナイゼーション)はHIV予防を啓発する機能も求められていますが、仮にPrEPセンター(PrEPを提供する拠点)になることでが出来れば、コミュニティにより影響力のある啓発が行える可能性もあると考えられます。

コミュニティに属さないゲイ・バイセクシャルへの情報提供など、これまでの予防対策からはみ出たターゲットへの介入 も課題となっている中で、CBOs・コミュニティセンターは新しい予防戦略のもとさらに事業の裾野の拡大が求められる段階にあると言われています。